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ビールが飲める本屋「B&B」大盛況 [本を読みながらビールが飲めるというコンセプト。]

ビールが飲める本屋
「B&B」
大盛況の秘密




モノがあふれている社会で、
売り手はいかにしてモノを売るか。
そして、
モノに囲まれている私たち買い手が、
モノを買う理由とは何なのか。
マザーハウス副社長の山崎大祐が、
これからの時代の
「モノの買い方、売り方」
を考えていく。



 
「正しいことをしたかったら、
偉くなれ」

 
あるドラマの名セリフですね。
この言葉、
私もビジネスをしていて苦しいことにぶち当たると、
よく思い出す言葉です。
これをビジネスの文脈に直すと、
「正しいことをしたかったら、
利益を出しなさい」
という言葉になるのかもしれません。

 
先日、
東京・世田谷区北沢にある書店「B&B」で、
この書店を2年前に立ち上げた共同代表者の内沼晋太郎さんと対談をしたときに、
ふっと頭に浮かんだ言葉が、
この言葉です。




この内沼さんとの対談は、
以前、
ご紹介した東京・代官山蔦屋書店の取り組みを知って生まれた疑問が発端です。 
全国で1日1店舗ずつ潰れていると言われている書店業界にあって、
代官山蔦屋書店は新しいビジネスモデルを作っています。
しかしながら、
記事の掲載後、
読者の方からいただいのが、
「これは大きな書店だからできることですよね」
という意見。
おカネがある大きな書店はできるかもしれないけれど、
小さな町の書店では同じことをするのは難しい、
と。
これを聞いて、
なんとしても町の小さな書店で、
「モノがあふれた時代のモノの買い方、
売り方」
につながり、
かつビジネスモデルとしても持続的であるものを探さないといけないと考えました。





■ 書籍販売だけでは書店はやっていけない!? 

 
そこで今回、
取り上げるのは、
東京・下北沢駅の近くにある書店「B&B」です。
「B&B」とは
「Book」&「Beer」の略で、
本を読みながらビールが飲めるというコンセプト。
苦しい書店業界にあって、
今、
最も注目されている書店のひとつです。

 
「新しい書店の稼ぎ方」
に挑戦し、
利益を出している。
しかも、
この「B&B」は東京の人気タウン・下北沢にはあるものの、
裏路地の2階でとてもわかりづらいところにあり、
書店として必ずしも売れる場所にあるようには見えません。
どうして、
この書店がうまくいくのでしょうか?



内沼さんはこう話します。

 
「出版流通には、
確かに売れなかった本のほとんどが返品できるというメリットはありますが、
書店での本の利益率はわずか20%前後。
放っておいても本がどんどん売れていた時代はよかったのですが、
現状では、
書籍の販売だけで小さな書店が、
東京の高い家賃を払って利益を出すのは、
かなりハードルが高い。
だから、
ほかのものと掛け算して、
収益源を複数、
確保することが絶対に必要でした」

 

同様の発言は、
代官山蔦屋書店の店長、
上田元治さんとの対談でも聞きました。

 

「よく言われるのは、
時間消費みたいなこと。
この時間消費に対して、
入場料をいただければいいのですが、
そういうわけにはいかない。
ビジネスとして成立するために、
どこにおカネを落としていただくポイントを作るか、
いつも悩んでいます」

 
このふたつの発言からわかるとおり、
すでに書店業界は、
本の販売だけでやっていくことは難しくなっていると考えたほうがいいでしょう。

 
逆に言えば、
こういう状況だからこそ、
1日1店舗のペースで書店がなくなっているのです。

 
そうした業界環境の中で、
この2店舗が共通して行っていることがあります。
ともにカフェなどのドリンクの提供を行っていること、
イベントを数多く開催して書店という空間の価値を最大化していることです。





■ 誰もやりたがらないことが、
ビジネスになる

「B&B」の収益の柱のひとつがイベントです。
オープン以来、毎日欠かさずイベントを開いてします(イベント情報はこちら)。
しかし、
大型書店でたさくんのスタッフがいる代官山蔦屋書店に対し、
「B&B」のような、
町の小さな本屋さんが毎日イベントをする負担は、
比にならないはずです。 
「イベントの計画を話すと、
ほぼ皆、
難しいと言いましたが、
決心は揺らぎませんでした。
大変でしたけど、
ずっと継続できています。
確かに手間はかかりますが、
どこの書店でもほぼ同じ本が買える中、
毎日のイベントはその日、
『B&B』に来ないと体験できないコンテンツであり、
本を買うお客様の集客にもつながるという点で、
とても意味があると思っています。
今では利益もしっかり出ていて、
収益の柱のひとつになっています」

 

と内沼さんは胸を張ります。

 
このイベントの収益と、
ドリンクの販売、
店内にある本棚などの什器販売で、
本業である書籍販売と合わせて収益が出るようになっています。

 

この話が示すように、誰が聞いても、
面倒くさそうだなあ、
とか、
大変そうだなあ、
と思うようなアイデアにこそ、
ビジネスチャンスがあります。

 

しかし、
そこには前提条件があります。
実際に事業を進める人が、
どれだけそこに情熱を注ぐだけの社会的意義を感じているか。
どんな計画も、
最初はビジネスとしてうまくいきません。
それでも、
そこに情熱を注ぎ、
継続しているうちにオペレーションが改善し、
さらにお客様に認知が広がって、
徐々に収益化に近づき、
ある点を超えると、
収益が生まれるようになるのです。





「正しいことをしたかったら、
利益を出しなさい」

 
書籍販売以外で利益を出せるようになったことが、
書籍販売にも好循環を生み出します。
内沼さんは、
書籍のセレクトに関して、
強いこだわりを持っています。

 
「世界中の、
さまざまな物事について本が出版されているので、
書店に行って棚を眺めることは、
いわばいちばん身近な
『世界一周旅行』
です。
私たちの『B&B』は小さい店ですが、
限られた棚の中で、
あらゆる角度からお客様の知的好奇心を刺激する、
広い世界との出会いを作り出すように、
スタッフ全員で選書をしています。

 
ほぼ本の売り上げだけに依存している一般的な書店は、
収益を上げるためにジャンルごとの売り上げを比較して、
売れるジャンルの棚を増やし、
売れないジャンルの棚を減らしていく。
たとえば外国文学の棚などは、
その論理で全国の書店から減る一方なのですが、
僕たちは棚で表現できる世界が狭くなっていく事態こそが、
書店にとって致命的だと考えています。
逆説的ですが、
書店にとって大事なものを守るためには、
本以外のモノも含めた、
複数の収益源をバランスよく持つことが必要なのです」

 
ベストセラーに偏りがちなほかの書店とは異なり、
「B&B」の本棚には、
あまり一般書店では見ないようなユニークな本もテーマ別に編集されています。

 
「棚作りに2倍の時間をかけても、
残念ながら、
いきなり2倍の売り上げが上がるわけではありません。
僕たちは複数の収入源を持っている分、
棚作りに時間をかけられる。
その結果、
ユニークな品ぞろえをしている書店があるといううわさが広まり、
それを聞きつけて、
全国から人がやって来てくださるようになってきたのです」

 

これはとても面白い現象です。
書店は一部を除き、
自分たちで独自に売り物である本を作れるわけではありません。
そのため、
本をセレクトし、
棚を編集する力が問われているのですが、
収益的に厳しくなると、
どうしても編集にかけられる時間が減り、
売れるベストセラー本ばかり仕入れようとしがちです。
その結果、
各書店に並ぶ本はどんどん同質化していくのです。

 

そんな中にあって、
「B&B」はますます個性を発揮して、
ネットの本好きコミュニティの間でも話題になっていきます。
ファンのコミュニティが存在し、
かつ流通構造が固定化されている業界にあっては、
このような現象が起こる可能性は十分あると考えられます。

 

売り上げや利益を求めないからこそ、
逆に売り上げにつながるというのも皮肉な話です。
これも、
ほかに収益の柱があり、
経済的自由があるから、
本当にお客様のためになる書籍の仕入れができるのです。
ビジネスである以上、
「正しいことをしたかったら、
利益を出さなければならない」のは、
変わりません。





■ 業界を変えたい思いが、
ブランドを作る

もうひとつ、
この「B&B」の特徴は、
そのビジネスモデルを公開している点にあります。
これは、
内沼さんが2013年に出版された
『本の逆襲』
を読んでも明らかで、
「B&B」の収益モデルや業界構造の前提などがほとんどオープンに語られています。 
一般的にベンチャーは、
まねされて自社の付加価値が低下するのを避けるため、
ビジネスの収益モデルなどについてはあまり語るものではありません。
しかし、
内沼さんの問題意識が、
「B&B」一店舗でとどまらず、
業界全体や本の未来に対して及んでいるがゆえに、
すべてを公開しているのです。

 
「私たちくらいの規模の新刊書店は、
どんどんなくなってきています。
けれども、
私たちは町の小さな書店が全国各地にあることが、
本の豊かな未来にとって必要だと考えています。
だから、
うまくいったことはどんどんまねしてほしい。
本と組み合わせて相乗効果のあるビジネスによって本屋が収益を上げる。
おこがましいかもしれませんが、
そのモデルを示したいと思いました。
もちろん、
立ち上げた当初はそんな余裕はありませんでしたが……」

 

この内沼さんの姿勢こそ、
「B&B」にたくさんのファンがいるいちばんの要素ではないでしょうか。
本が好きな人たちは、
多かれ少なかれ、
書店業界の未来を危惧しています。
そこに、
自店の収益だけでなく、
業界全体の発展を考えて発信し、
ビジネスモデルを公開している書店が現れたのです。

 

以前は、
ブランドは情報を非公開にして、
クールさを背景に作られるものでしたが、
今は情報を公開し、
対話することで作られるものへと変化してきています。
その点、
「B&B」は多くのイベントを通して、
ブランド力が上がっていると言えます。

 

「イベントに参加したり、
定員さんと少し話したりすると生まれる、
『場にいる時間』と
『コミュニケーションの総量』
が大切です。
これはアマゾンなどにはできない体験価値であり、
リアルなお店でわざわざ物を買う価値になります」

 

ブランドを作る際に、
「ストーリー」
の要素が当たり前のように語られるようになりましたが、
その手法が広がるにつれて、
ストーリーが本物かどうかを問われるようになってきています。

 

そこで次に重要になってくるのは、
内沼さんが挙げる現実体験での
「場にいる時間」と
「コミュニケーションの総量」
でしょう。

 

「B&B」のすばらしいビジネスモデルは、
書店業界にだけ通ずるものではなく、
「モノがあふれた時代のモノの売り方」
にも応用できるものだと私は考えます。



【お知らせ】
マザーハウスでは本連載のテーマである
「モノにあふれた時代のモノ買い方、
売り方」に合わせて、
マザーハウスカレッジという、
みなさんで議論する場を設けています。

ecar

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